Vol.549 会計(決算書)と科学


だいぶ前になるが推理小説にはまった時期があった。

密室モノや犯人を推理する類のモノなど、

鮎川哲也氏、島田荘司氏がとくに好きだった。

難しい数式が出てこなければ「科学系の本」も好きである。

 

先日、武田邦彦さんの話を聴く機会があった。

「世の中の当たりまえはほんとうなのか」のような話は、

私にとって、とても興味深い内容だ。

彼は「科学者」である。

 

その武田さんが書いた「武器としての理系思考」の本に次のような一節がある。

 

             ・

 

『科学者でない人は、自分が信じていることと違うことを言われたときに、

 カッとくることが多いでしょう。

 ところが、科学者というのは自分が信じていることが「ない」のです。

 科学における結論はデータによって変わってきますから、

 対象に対しての個人的な信念とかそういうものはありません。』

 

 

さらに、

 

 

『1人ひとりが“ウソを見抜く力”を養う必要がある。』

 

 

と書かれていた。

 

             ・

 

これを読んだとき、「会計の世界はどうなのか?」と真っ先に思ってしまった。

 

目的や役割が異なる科学と会計を比べることはできないが、

会計情報を経営に活用するうえで“科学的な発想”は必要だ。

 

管理会計(CVP分析)の本に

次のようなことが書かれていたのを思い出した。

 

要約すると、

 

------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 

・損益分岐点比率とは、実際の売上高に対して

 損益分岐点売上高が何%の位置にあるのかを測定するための指標

・たとえば、損益分岐点比率が80%の会社の場合は、

 売上高があと20%減少しても、

 まだトントンでいられる、まだ赤字にはならない、ということを表している。

・この20%の指標のことを「経営安全率(安全余裕率)」という。

 

さらに、

 

『損益分岐点比率は低いほうが望ましく、

 売上減少時の抵抗力が高くなり、安全性が増すことになる。

 

 (中略)

 

 損益分岐点比率の数字を変えながらシミュレーションできるのが、

 損益分岐点分析を経営に活用する、ということである。』

 

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会計に携わっている人たちの多くは、

この文章を読んで疑問を持たないかもしれない。

 

が、

 

私が最初に思ったことは、

 

「これはオカシイ!」。

 

次の部分である。

 

・たとえば、損益分岐点比率が80%の会社の場合は、

 売上高があと20%減少しても、

 まだトントンでいられる、まだ赤字にはならない、ということを表している。

 

この説明には「欠陥」がある。

それは「売上高があと20%減少」という表現である。

 

100が80に減ればたしかに売上が20%減るが、その減り方が問題なのだ。

減り方によっては、けっして「トントン」にはならない。

トントンになるのは「ある条件の場合のみ」であり、

他の条件では、この説明は当てはまらない。

 

そして、次のように書かれている。

 

「損益分岐点分析を経営に活用する」とは、

「数字を変えながらシミュレーションできる」ことである。

 

ここで重要なのは「何の数字を変えるのか」なのだ。

 

・もし変動費率を5%下げることができたら・・・

・限界利益率をたった1%上げるだけで・・・

 

シミュレーションにはほど遠い。

 

未来をシミュレーションするためには“数学”が必要になってくる。

きちんとした計算根拠があってはじめて実践で応用できる。

どの本にも載っている有名な「損益分岐点図表」や「損益分岐点分析」では、

社長が望むシミュレーションはできない。

 

             ・

 

武田さんの本に「科学者の6原則」というのが載っていた。

 

1.科学は未来を予測しない

2.テレビに出ている専門家を信用しない

3.データが出るまで判断しない

4.違うデータが出たら考え直す

5.科学者は異論を認める

6.科学にウソは通用しない

 

これを読みながら考えてしまった。

「自分の6原則は?」

「社長の6原則は?」

「それぞれの職業の6原則は?」

 

そして「政治家の6原則は?」

 

             ・

 

「3期分の決算書を見ればその会社の実情がすべてわかる!」

 

と豪語する銀行出身のコンサルタント(中小企業診断士)に会ったことがある。

 

どういう経緯で依頼したのかを社長に聞いてみたところ、

取引銀行からの強いススメだった。

たまたまその日は、企業診断のために会社を訪れていたのだ。

 

なりゆきで一緒に食事をする「はめ」になり、

2時間にわたって「決算書の話」を聞かされることに。

 

後日、社長から診断結果を見せてもらった。

 

教科書に載っているような、

ありきたりな“模範解答”を予想していたのだが(当然それも書いてあったが)、

最後に書かれた提案らしきものを見て「唖然」とした。

 

おそらく、読者も容易には想像がつかないと思う。

まさに“驚き呆れてものが言えなくなる状態”である。

 

社長曰く、

 

「どうやらこの人は知識だけは詳しいが、

 “現場の気持ち”がわかっていないようだ」

 

             ・

 

会計(決算書)の情報を経営に使うには、

会計(決算書)に偏らない“科学の視点”も必要のようだ。

 

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【発行責任者】宇野 寛
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