Vol.550 ホントの原価は誰にもわからない!


先月、読者からメールが届いた。

 

『私は運送会社の社員です。

 2024年問題を目前にして本当に儲かっているのかわからずに

 取引をしている同業者が多いと実感しております。

 トラック協会などが「原価計算セミナー」を開催していますが、

 イマイチ納得できません。

 機会がございましたら、

 このメルマガやセミナーで取り上げていただけないでしょうか?』

 

             ・

 

もう20年以上前になるが、

「トラック協会」でMQ会計のセミナーをやったことがある。

事前に「運送業の原価」を下調べして臨んだ。

 

いまの原価計算は、

1962年(昭和37年)当時の大蔵省会計審議会が

中間報告として公表したものが基準として使われている。

いわゆる“原価の三要素(FC全部原価)”である。

 

(原価の三要素) 製造の原価=材料費+労務費+製造経費

 

大学など教育機関の教材として、

公認会計士試験や簿記一級試験の参考文献として、

企業が行っている原価計算を含めすでに世の中に浸透している。

 

“世の中の常識”になってしまっている原価計算のやり方を、

原価計算を専門的に学び納得してしまった人たちに、

「意思決定(経営判断)には使えない」といったところで、考えは簡単には変わらない。

(そもそもFC全部原価では損益分岐点売上高の計算はできない)

(MQ会計表も作れない)

 

多くの人は、

50年以上も前に誰か(有識者や学者など)が決めた計算方法を学び

現場で使うことに一生懸命で、「原価とは何か」「なぜこんな計算が必要なのか」

といった原価そのものに対しての疑問を持たない。

科学や科学者の考え方とは思考のスタートが異なるのだ。

 

 

『科学者でない人は、自分が信じていることと違うことを言われたときに、

 カッとくることが多いでしょう。

 ところが、科学者というのは自分が信じていることが「ない」のです。

 科学における結論はデータによって変わってきますから、

 対象に対しての個人的な信念とかそういうものはありません。』

 

 

前回のメルマガで紹介した「科学者・武田邦彦さん」の本からの抜粋である。

 

             ・

 

この原価計算のやり方に“異”を唱えた人が現れる。

 

ハリス(J.N.Harris)である。

1936年に書かれた彼の論文「我々は先月いくらもうけたか」には

次のような記述がある。(要約しています)

 

FC全部原価は、経理部長の立場から見れば

 会計規則に則って行った会計処理であり、その限りにおいては間違っていない

 

ところが、会計の素養があまりない社長にとっては、

 そんなことはどうでもいい。会計特有の仕組みなど問題ではない

 

売上高と利益が対応して推移しないような損益計算書はおかしい!

 これが社長の感覚である

 

配賦の仕方によって原価が変わるというのは、

 この先を考えるうえで邪魔になる

 

そこでハリスは考える。

 

「経営に使えるようにするには、

 経理部長が配賦している製造間接費を原価から除いてしまおう」。

 

そして考え出された損益計算の方式が「direct cost plan」、

「直接原価計算」という名称はここに由来している。

世界で最初に直接原価計算に言及した論文となった。

 

興味深いのは、

「我々は先月いくらもうけたか」が

重要な研究テーマになっている点である。

当時のアメリカでは、すでにこのような問題を研究していたわけだ。

 

※)参考文献『直接原価計算論 発達史(高橋 賢=著 中央経済社)』

 

             ・

 

公益社団法人全日本トラック協会が

「原価計算活用セミナー」として公表しているテキストがある。

国土交通省もこの計算を推奨している。

このテキストには「活用目的と計算方法」が載っている。(一部抜粋)

 

(原価計算の活用目的と計算方法)

 

 1.適正な運賃を収受

 2.コスト管理・コスト削減・業務改善

 3.会社の赤字要因を特定する

 

さらに、「車両単位の原価計算」「1km当たり変動費の算出」「運転者人件費の考え方」と事細かに続く。

 

おそらく今回メールをくれた読者はこのことを言っているのだろう。

ここからは推測だが、彼は運送業の原価計算について相当勉強したはずだ。

その結果、「経営判断に使えるのか」という疑問を持ったのだと思う。

 

             ・

 

昔からやっていたから・・・

そういう決まりだから・・・

出てきた数字、計算根拠に疑問を感じないとしたら・・・

科学的な経営・意思決定を放棄していることにはならないだろうか。

 

“ほんとうの原価”は、誰にもわからない。

 

ということは、

 

“利益”も計算できない。

 

「それでは困る」

「原価を求めるために何かイイ方法はないか」

 

だったらルールを決めよう

 

これを“原価”と呼ぶことにしよう

これを税金の計算に使うことにしよう

決算書に記載する製品や仕掛品はこのように“評価”することにしよう

 

そして1962年(昭和37年)、

“中間報告”として公表されたのが「原価の三要素」。

 

             ・

 

会計や原価計算に違和感を持つ社長は、独自のモノを作っている。

MQ会計やマトリックス会計もその一つだ。

 

MGに置き換えて考えるとシンプルでわかりやすい。

 

運送業では、

トラックは「小型機械」でトラックの運転手は「ワーカー」。

 

MGやMQを実践している社長は置き換えて考え、意思決定に使っている。

「原価計算がイイか悪いか、正しいかそうでないか」ではなく、

社長自身が「実感(納得)できるような工夫」が必要なのだと思う。

 

私が気になったのは、彼の会社の「社長はどう感じているのか」だ。

オーナー社長なのか本社から派遣された社長なのかでも異なる。

 

が、

 

私が社長だったら

「楽して儲けるやり方、意思決定がしやすいシンプルな方法」を考えたい。

 

「じゃあ、この先どうする!」

 

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【発行元】株式会社アイティーエス 
【発行責任者】宇野 寛
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