全部原価計算(フルコスティング)と直接原価計算(ダイレクトコスティング)

現在の制度会計では、製品の原価計算を行う場合には、
「フルコスティング(FC:全部原価計算)」によらなければなりません。

したがって製造業は、
従来の方法であるフルコスティングによって
製品の原価計算を行ってきました。

 

この方法により算出された製品の原価には、
材料費、外注費などの直接経費の他に、
人件費や製造費用などの間接経費が含まれています。


フルコスティングに対して、
直接経費のみ(材料費・外注費など)を製品の原価として計算する方法を
「ダイレクトコスティング(DC:直接原価計算)」といいます。

企業の実態は、ダイレクトコスティングを行ったときに
はじめて見えてきます。

 

本来、フルコスティングは
「この製品をつくるのに全部でいくらかかったか?」
をつかむための、プライシング目的で誕生しました。

しかし、何個売ればいくら儲かるといった
戦略的な意思決定にはまったく向かない方法です。
「決算書は黒字なのになぜ資金繰りが大変なんだ?」
という疑問には対応できません。
  
製品は売れてはじめて利益が出るのであって、
作れば利益が出るものではないはずです。
しかし全部原価(FC:フルコスティング)では
「期末あるいは月末の製品在庫が多ければ多いほど
 (作れば作るほど)利益が出る」
というおかしな現象が発生します。

 

作れば作るほど儲かる全部原価FC(フルコスティング)

作れば作るほど儲かる?

 

 例)以下に示すX社のフルコスティング(FC:全部原価計算)による

   第1期の損益計算書は、次の通り600万円の黒字を示しました。 
 

A.フルコスティング(全部原価:税務署用)による利益計算(単位:万円)

 

●フルコスティングによる利益計算の解説

売上状況

 X社は健康器具を作っている会社です。

 創業第1期目で今回が初めての決算です。

 当期の生産台数は1000台で、そのうち600台を

 1台10万円で販売しました。(売上高は6000万円)

原価計算

 会社が計算した製造原価は次のとおりです。

 1000台の製品を作るのに材料費が4000万円、労務費が2000万円、

 経費が1000万円の合計7000万円掛かりました。
 したがって1台当りの製造原価は「7000万円÷1000台」で7万円に
 なります。 期中で600台販売していますので期末在庫は400台で

 2800万円になります。 (7万円×400台)
 売り上げた600台分の売上原価は4200万円となり、
 売上総利益は1800万円になります。

当期利益

 販売費や管理費が合計で1200万円掛かったため、

 差引当期利益は600万円となります。

ダイレクトコスティングでは

しかし、これをダイレクトコスティング(DC:直接原価計算)で
計算してみるとなんと、600万円の赤字だったのです。
 
B.ダイレクトコスティング(直接原価)による利益計算(単位:万円) 

 

●ダイレクトコスティングによる利益計算の解説

売上状況

 フルコスティングと同じ売上高は6000万円です。

原価計算

 フルコスティングでは材料費、労務費、経費を

 製造原価 として計算していましたが、

 ダイレクトコスティングでは材料費だけが原価となります。

 したがって1台当りの製造原価は
 「材料費4000万円÷1000台」で4万円になります。
 期中で600台販売していますので期末在庫は400台、
 1600万円になります。(4万円×400台)
 売り上げた600台分の売上原価は5400万円となり、
 売上総利益は600万円になります。

当期利益

 販売費や管理費が合計で1200万円掛かったため
 差引当期利益は600万円の赤字となります。

儲けるために使える原価計算とは?

本来、製品は売れて初めて利益がでます。
しかし、フルコスティング(FC:税務署用)の場合は、売れなくとも
「作れば作るほど儲かる」のです。

 

前の例では第1期の生産数量は1000台でしたが
じ設備、同じ人件費、同じ経費で1200台生産したとすると
どうなるでしょうか。

 

そんなことがあるか? と思われた方、
会社ではコストダウンを図るためにさまざまな努力をしています。
 
例えば、Aさんが1日に作る製品が10台だったとします。
経費を掛けないで生産量を上げればコストダウンにつながると考えた担当者は、
1日に12台つくれるように工夫をしました。

その甲斐があって全社員で1.2倍の1200台作れるようになりました。
結果は次のようになります。

 

 

フルコスティングでは 項 目 ダイレクトコスティングでは
 生産数量が増えたため、
 原価が7万円から6.5万円に
 下がったように見えるが、
 期末の在庫数が増加したので、
 棚卸金額が増加 した
製造原価  製品の原価は
 材料費だけなので
 生産数量に関係なく
 1台4万円
 期末の在庫が多ければ多いほど
 (作れば作るほど)
 利益が出てしまう
当期利益  生産数量が増えても
 売上高が変わらないので
 利益は変わらない
 本当に儲かっているのか疑問だ
 経営戦略には使えない
結 論  売上が増えなければ利益は
 絶対に増えない
 経営の実態を把握できる

ではなぜこのようなことがおきるのでしょうか?
全ての原因は製品棚卸の評価の仕方にあります。
税務申告の際に、製品原価の計算方法が
「フルコスティング(FC:全部原価)によらなければならない」
となっているからです。

 

例えば、「当期の損益分岐点売上はいくらだったでしょう?」
というような分析計算は一般的に行いますが、
そのためには経費を変動費と固定費に分解します。

それでは製品在庫はどちらになるでしょうか?

 

結局、
フルコスティングで作成された損益計算書をもとに
損益分岐点売上高を計算すれば、
逆に方向性を見誤ってしまう恐れがあるのです。

 

「原価を下げると利益は増える!」 ほんとうですか?

製造業や建設業では、儲けるため最大の障害が

じつは「原価計算」にあったのです。
製品の個別原価が気になりますか?
原価が下がると利益が増えると固く信じていませんか?

 

原価が下がると利益が増える?

これは今の制度会計が生み出した「原価のマジック」です。

すべての原因は今の税務を中心とした制度会計にあります。
とくに中小企業の社長方がこの先利益を上げていくためには、

ぜひ、原価計算に対する考え方を変えてほしいと思います。

 

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