利益が見える戦略MQ会計(かんき出版)
の著者が伝える「戦略MQ会計講座」
最近、右のような図形を見かけます。管理会計で作成する「変動損益計算書」を図形に当てはめたもので、一見「MQ会計表」のようですが、MQ会計とは根本的に異なります。
MQ会計は、社長が経営に使うための数学です。数学は、きちんとした定義にもとづき矛盾がありません。だから未来を考えることができます。
変動損益計算書では、売上高から変動費を差し引いて限界利益を求めます。限界利益から固定費を差し引けば利益になるのですが、この図表ではなぜか「経常利益」になっています。
製造業や建設業の決算書に載っている「経常利益」は、本来「全部原価FC」で計算された利益です。P/L(損益計算書)の売上原価項目に記載された「期首製品棚卸高」や「期末製品棚卸高」、製造原価報告書に記載された「期首仕掛品棚卸高」および「期末仕掛品棚卸高」の金額には、労務費や製造経費などの製造固定費が含まれています。
管理会計で作成する変動損益計算書では、これらの金額は除かなくてはなりません。
したがって、限界利益から固定費を差し引いた利益は原則「P/Lの経常利益」とは一致しません。
話を進めるために、かりにこれを経常利益だとしましょう。経常利益率は売上高に占める経常利益の割合です。
経常利益率(%)= 経常利益 ÷ 売上高 × 100
では問題です。
【問題】
次の3つのなかで、一番良い会社はどれですか?
その理由も併せて考えてみてください。
(A社)
売上高 150億円
限界利益率 40%
経常利益率 6%
労働分配率 50%
(B社)
売上高 120億円
限界利益率 100%
経常利益率 10%
労働分配率 40%
(C社)
売上高 100億円
限界利益率 20%
経常利益率 5%
労働分配率 60%
この数字を、それぞれの会社に当てはめていくと、次のようになります。
(A社)
売上高 150億円
限界利益率 40%
経常利益率 6%
労働分配率 50%
(B社)
売上高 120億円
限界利益率 100%
経常利益率 10%
労働分配率 40%
(C社)
売上高 100億円
限界利益率 20%
経常利益率 5%
労働分配率 60%
限界利益率、経常利益率、労働分配率だけを見れば、一番良い会社は(B社)です。
・売上至上主義・・・売上さえ増えれば何とかなる
・限界利益率が重要だ・・・限界利益率を上げるには変動費率を下げる
・経常利益率は最低10%はほしい
・労働分配率は40%までにおさえたい
世のなかで常識のように言われていることは、
ほんとうに正しいのでしょうか?
固定費削減と言うけれど、
固定費を下げる目的は何なのでしょうか?
MQ会計を実践している人とそうでない人に同じ決算書を見せた場合に、
見るポイントや分析のしかたがまったく異なります。
税理士や銀行マンは、すぐに“率”で考えてしまいます。
ところが、MQ会計やMGを実践している人たちは、
率ではなく“額”で考える習慣が身についています。
これまで各地でMG研修を開催してきて気がつきました。
それは、参加者がこの先、会社をどうしていくかを考えるとき、
あるいは、他の参加者にアドバイスするとき、
・売上を上げたら、、、
・原価率が高いね、、、
・人件費率が多いですよ、、、
などとはけっして言いません。
どうしたらMQ>Fになるのかを考えようとします。
ましてや、経常利益率にとらわれる必要などありません。
では、なぜMQ会計ではアルファベットを使うのか。
それは「数学を使って」この先の経営を考えるためです。
MQ会計の基本は「要素法」です。P・V・Q・F・Gの5つの要素は、
そのまま「5つの変数」になります。
変数を使うということは、値を変えて計算できるということです。
この先の経営を数学的に考えるということです。
MQ会計における労働分配率とは、MQに占める人件費F1の割合です。
労働分配率(%)= F1 ÷ MQ × 100
m率とは、PQに占めるMQの割合、
g率とは、PQに占めるGの割合です。
m率(%)= MQ ÷ PQ × 100
g率(%)= G ÷ PQ × 100
m率とg率には深い関係があることがわかります。それがg/m比率です。
g/m比率(%)= g率 ÷ m率 × 100
=(G/PQ)÷(MQ/PQ)× 100
= G/MQ × 100
MQ会計を実践するようになると、経常利益率にこだわらなくなります。
MQ会計表には経常利益率はありません。あえて当てはめるなら「g率」です。
しかし、このg率でさえどうでもいいのです。
なぜでしょうか。
その理由は、g率は対PQ比率だからです。
対PQ比率は、けっして重要ではありません。重要視してはいけない比率なのです。
変動損益計算書とMQ会計表は、本来まったくのベツモノです。MQは限界利益ではありませんし、Gは経常利益ではありません。それらを踏まえたうえで変動損益計算書に当てはめて計算すると、「経常利益率÷限界利益率×100」は「経営安全率」になります。
では、先ほどの3つの会社の経営安全率を計算してみましょう。
(A社)
売上高 150億円
限界利益率 40%
経常利益率 6%
労働分配率 50%
(B社)
売上高 120億円
限界利益率 100%
経常利益率 10%
労働分配率 40%
(C社)
売上高 100億円
限界利益率 20%
経常利益率 5%
労働分配率 60%
経営安全率(%)
=経常利益率6%÷限界利益率40%×100
=15%
経営安全率(%)
=経常利益率10%÷限界利益率100%×100
=10%
経営安全率(%)
=経常利益率5%÷限界利益率20%×100
=25%
管理会計で使われている「経営安全率」とMQ会計における「g/m比率」は、
意味がまったく異なります。
たとえば、経営安全率20%の企業は、売上高があと2割減少してもまだトントンでいられる状態という意味で使われています。
MQ会計では違います。g/m比率が20%の企業は、販売数量Qがあと2割減少してもまだトントン(G=0)の状態であることを意味します。
MG研修に参加して学んだ方はおわかりのように、
g/m比率はQの利益感度なのです。
g/m比率の反対側にあるのがf/m比率です。
2つの比率の合計は100になります。
限界利益率が高いだけでもダメ
経常利益率が10%を超えたからといって
けっして良い会社とはかぎらない
利益GはMQとFのバランスで決まる!
経営はf/m比率(孫正義)といわれるゆえんです。