利益が見える戦略MQ会計(かんき出版)
の著者が伝える「MQ会計と直接原価講座」
製造業において、利益は企業活動のどの時点で発生するでしょうか、
という質問です。
工場に材料を投入し製造工程で加工していく段階ですか?
製品として完成しすぐに出荷ができる状態になったときですか?
それともお客様に納品したときですか?
MQ会計を使ってこの先の経営を考えていくうえで必要になるのが
「直接原価DC(ダイレクトコスティング)」です。
製品に仕上げる段階で付加価値が増えていく
原材料が製品に形を変えていく段階で利益が増していく
だから利益は工場で生まれる、という経営者と、
原材料を切ろうが削ろうが磨こうが付加価値は1円も増えない
製品は販売しなければ利益は1円も生まれない、
と考えることができる経営者との違いです。
販売業やサービス業では仕入れたものが原価なのでわかりやすいのですが、
多くの製造業や建設業では、製品や工事の原価は昔からの習慣、
材料費に労務費と経費や外注費を加えたものが原価であるという考え方で
経営を行ってきました。
単純な工程の製造業を想像してみてください。
鋼材のかたまり(原材料)を「切って、削って、磨いて」
という3つの工程を経て1個の製品に仕上げます。
具体的には、1,000円で購入した原材料を工程Aから工程Bを経由して
最終の工程Cで製品が完成し、製品はお客様に5,000円で販売されます。
この企業の製造分単価(1分あたりかかる製造経費)は「60円」です。
企業全体の労務費と製造経費の合計を年間の総稼働時間(分)で割って求めた数値で、
原価計算の基準になっています。
工程Aに要する時間は15分です。
工程Bに要する時間は10分です。
工程Cに要する時間は5分です。
完成品になるまでは標準時間で合計30分かかります。
1.原材料購入:原材料
↓
2.工程A(15分):仕掛品
↓
3.工程B(10分):仕掛品
↓
4.工程C( 5分):完成品
↓
5.納 品
製品1個を作るために1,000円で購入した原材料が各工程を経由すると
途中の金額がどのように変わっていくのでしょうか?
解説と一緒にご覧ください。
1.原材料購入
※購入価格は1,000円です。
↓
2.工程A(15分):仕掛品
※材料を切り出すための原価(加工賃)は900円です。
分単価60円に所要時間を掛けて算出します。
↓
3.工程B(10分):仕掛品
※同様に切った材料を削るための原価は600円です。
↓
4.工程C( 5分):完成品
※仕上げ工程の原価300円を経て完成品になります。
↓
5.納 品
※完成品の原価は材料費1,000円に
各工程の原価、900円、600円、300円を加えて2,800円となります。
ではもう一度質問です。
製造業において、利益は企業活動のどの時点で発生するでしょうか。
工場に材料を投入し製造工程で加工していく段階ですか?
製品として完成しすぐに出荷ができる状態になったときですか?
それともお客様に納品したときですか?
もうすでにお分かりのように、今の制度会計による「原価計算」の仕組みでは
原材料を購入してから工程を経るたびに利益が付加されていきます。
そして製品がどの工程まで終了しているかによって仕掛品の評価額が変わります。
工程Aが終了した段階での仕掛品は1個1,900円です。
工程Bが終了した段階での仕掛品は1個2,500円です。
工程Cが完了した完成品の評価額、製品の原価は2,800円です。
製造業の責任者の方にこのようなお話しすると興味深い答えが返ってきます。
「そんなことは当たり前でしょう
各工程で手を加えている分、仕掛品の価値が増えるのは当然!」
という見解です。
長年、現場で仕事をしてきた方々にとっては【常識】なのです。
そしてそれは、「会計学上も税務上もこれが正しい」、
つまり、法律で定められているのです。
よって「製造業では、利益は企業活動のどの時点で発生するでしょうか」
という問題の答は、
☆製造工程で徐々に利益は増えていく
そしてそれが製造業の「加工高」である
☆利益は工場で生まれる
と、こうなってしまうのです。
では、製造業の決算書にはどのように表示されているのでしょうか。
「製造原価報告書」に「期末仕掛品棚卸高 XX,XXX円」と計上することで
その分が利益として加算される仕組みになっているのです。
同じ金額がB/S貸借対照表の棚卸資産に「仕掛品」として計上されているはずです。
でもよく考えてみてください。
1,000円で購入した原材料は、切ろうが削ろうが磨こうが、
お客様の手元に納品されるまでは1,000円のはずです。
社長であればわかるはずです。
「利益はお客様のところに製品を届けたときにはじめて発生する」と。
利益は会社の外にあります。
利益は「製品をお客様に販売したとき」にしか発生しません。
もし、利益が工場で生まれるであれば、ドンドン作ればいいだけです。
しかしそんなことを続けていたら会社はいずれ潰れます。
ではこれをMQ会計で考えてみるとどうなるでしょうか。
この製品の「P」は 5,000円です。
「V」は材料費の1,000円です。
販売したときに獲得できる「M」は 4,000円です。(M=P-V)
この製品を仮に1000個販売したとしましょう。
そうするとPQ(P×Q)は500万円、VQ(V×Q)は100万円となり
MQ(M×Q)は400万円となります。
製造途中の仕掛品の段階では「VQ」はゼロです。
PQが発生しないためVQも発生しません。
MQはこの製品を販売したときにはじめて発生するのです。
(Qは販売数量です。生産数量ではありません)
制度会計上では次のように考えます。
材料を購入した時点では材料費として計上します。
この材料が加工された時点から「仕掛品」として評価されることになります。
つまり材料費に手間賃と経費を加えないといけません。
加工前の材料は1,000円ですが、製造過程に入った途端に
進捗度合いに応じて手間賃と経費を上乗せさせられ、
例えば仕掛品評価は3,000円になったりします。
製品を加工するだけで2,000円の利益が発生してしまうのです。
これが全部原価FCの正体です。
「全部原価FC」で作られた決算書では、製品が売れる前に利益が出てしまいます。
つまり、工場で作れば作るほど、期末の製品や仕掛品在庫が多ければ多いほど
利益が増える仕組みなのです。(架空利益)
MQ会計では「直接原価DC」で利益を計算します。
製品が売れてはじめて利益が発生します。
税務署に提出する決算書に記載された利益と、MQ会計表で計算した利益は違うのです。