利益が見える戦略MQ会計(かんき出版)
の著者が伝える「法人税法と売上原価講座」
本来、製品や商品から生み出される粗利は、販売した時点で発生します。店頭で商品が1個売れれば、その時点で1個分の粗利Mが積み上がります。10個売れれば10個分です。それが月間の固定費Fを上回ったときから利益Gが出始めます。
MQ会計はとてもシンプルだから、現場の社員にもわかりやすいのです、、、
と、ここまではいいのですが、この先に立ちはだかるのが【法人税法】です。
いまの会計は中心に税務が存在します。決算書に表示される利益は、税法によって左右されるわけです。そしてその大きなウェイトを占めるのが【売上原価】です。
今回は、MQ会計でも比較的簡単であろうと思われていた「販売業」について触れてみたいと思います。
MQ会計を学んだ方ならご存知のように、「商品を仕入れて販売する業種(販売業)では仕入れたものが原価、DC(直接原価)なのでそのままMQ会計表が作れます」というのがこれまでの大方の見解でした。しかし、税法との絡みを見ていくと販売業でも会計処理のしかたで製造業のような「全部原価FC」になってしまうのです。
法人税法にはつぎのように書いてあります。
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法人税法施行令第32条【棚卸資産の取得価額】
購入した棚卸資産
次に掲げる金額の合計額
イ 当該資産の購入の代価(引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、
関税(関税法(昭和二十九年法律第六十一号)第二条第一項第四号の
二(定義)に規定する附帯税を除く。)その他当該資産の購入のため
に要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)
ロ 当該資産を消費し又は販売の用に供するために直接要した費用の額
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「購入した棚卸資産」とは、在庫のことです。なぜわざわざ「購入した」になっているかといえば、「タダでもらった在庫は計上しなくていい」からです。つまり、お金を払って仕入れた商品が売れ残ったときの話で、「販売業であっても引取り運賃や荷役費、運送保険料、購入手数料、そして関税、その他仕入れの際に掛かった費用はすべて、棚卸の単価または合計に入れてください」というのが「イ」の内容です。
さらに「ロ」では、「仕入れた商品を消費しまたは販売するために直接掛かった費用も加えてください」と言っています。
すでに売れてしまった分に関してはなんの問題もないのですが、
「たまたま決算で売れ残った商品をなんぼにしたらええん?」
というわけです。
なぜこんなややこしく書いてるのかというと、期末の在庫の単価の付け方次第で利益や税金が大きく変わるからです。
ある商品を1000万円仕入れたとします。そのうち300万円分が期末に売れ残ってしまいました。仕入れの際にかかった運賃と保険料の合計は50万円です。上記法人税法施行令第32条の「イ」に相当する金額です。
では、この商品を在庫に計上する際の金額はいくらにすればいいでしょうか?
ここで疑問が生じます。
A.1000万円はすべて同じ商品、同じ価格なのか
B.いろんな種類や価格の商品全部に対しての運賃なのか
です。
同じ商品を100個仕入れたAの場合、1個あたりに掛かる運賃と保険料は
5000円(運賃50万円÷仕入数量100個)になり、
期末に残った商品1個あたりの単価は105,000円となります。
したがって30個分の在庫はこの法律に従うかぎり「105,000円×30個」、
315万円で棚卸に計上しなければなりません。
ではBの場合を考えてみましょう。
Bでは仕入れた商品の内容および単価はバラバラです。個数はわかりません。
この場合には仕入の際に掛かった運賃と保険料を期末の在庫にも
反映させなければなりません。
翌期に繰り越す在庫に加算する運賃と保険料は次のようにして求めます。
「運賃等50万円 × 在庫分300万円 ÷ 仕入総額1000万円 = 15万円」
期末の在庫は315万円で計上することになります。
AとB、計算結果はどちらも一緒です。
税務会計上は、数量Qという概念がなくても支障はないようです。(※
※)種類の異なる棚卸資産に共通して発生した付随費用については、
法人税法ではとくにその配賦方法を定めていません。
実務では数量は使わずに状況に応じて合理的な方法による按分計算で求めます。
仕入の際に掛かる運賃や手数料など、ネットショッピングや通信販売で考えてみるといろんなパターンがあることがわかります。
○ 送料は無料です
○ 今回に限り送料をサービスいたします
○ 商品は送料込みの価格です
○ 送料は別途ご負担ください
○ 送料は着払いでおねがいします
じつは会社でも同じです。
○ 送料は元払い ⇒ 運賃は仕入先負担
○ 仕入価格に運賃が含まれている ⇒ 運賃は特定できない
○ 仕入の都度納品書に記載される ⇒ 運賃は当方負担
○ 梱包数や数量によって運賃が変わる ⇒ 商品1個あたりの計算ができない
仕入れた商品に運賃が含まれている場合には問題ないのですが、こちらで負担している場合の会計処理は運賃や保険料なども含めて商品仕入勘定に計上したり、あるいは、「仕入諸掛(しいれしょがかり)」のように別勘定を使って計上するなど、企業によってまちまちです。
会計では、
○ 仕入金額はいくらだったのか
○ 期末の商品在庫には運賃や保険料などを含めてるのか
○ 仕入運賃は変動費なのか固定費なのか
が重要視されます。しかし、社長がこの先の経営を考えるうえでは、
○ 商品1個から獲得できるMはいくらなのか
○ MQをどのくらい積み上げれば目標利益に達するのか
のほうが重要です。
年1回の決算書を作るために
「しかたなく棚卸しを行っている」という企業も多いのです。
MQ会計は税務申告のための利益計算ではありません。
○ 在庫など調べなくてもMQやGが計算できる
○ だからこそ未来のシミュレーションができる
○ 棚卸しなどしなくても昨日までのMQがわかる
のです。
そしてそれは社長方にとってこの先の羅針盤の原点、基礎、
これこそ社長が求める「儲けるための会計」です。
そろそろ税法主導、税務中心の会計処理から
社長が求める会計へ移行する時期に来ているように思います。