Vol.536 【続)ヒマなそば屋と忙しいまんじゅう屋】

<本書のねらい>

企業の経営者、管理者、技術者、およびこれを助けるスタッフの人びとが
採算的意思決定を合理的に行なうためには、
経済性分析についての基礎理解を深めることがまず必要である。
真の応用力は原理原則を正しく、
そして十分に理解することから生まれるものだからである。
それと同時に、複雑な現象の陰にかくれている現実問題の構造を見抜き、
それに適した分析手法をうまく対応させるためには、
幅広い事例を知っておくことも有益である。
また、分析結果を目に見える形にまとめるためには、それなりの工夫も必要である。

                  ・

そして「1.現状の展望と問題点の提示ーよく見かける問題点の例示」には

次のような記述がある。


企業で生産している製品(またはサービス)の中で、どれがどれだけ有利なのか、取捨選択の基準を何にするか、といった問題がまちがって解釈されたり、不適当な計算尺が摘要されている例が少なくない。たとえば、固定的な費用を人為的に割り掛けた「製造原価」を不用意に用いたり、変動費と固定費とに分けて「限界利益」をつかみさえすれば、万事足りると思っている例も少なくない。

工程選択の応用問題である内外策の決定についても、外注コストと対比すべき自製のコストの内容が不明確だったり、手余り状態か、手不足状態かといった条件に応じて判断尺度を使い分けるといった配慮がなされていない場合も多い。

また、内外作の選択の対象となる製品や部品が複数あるときの優先順位のつけ方についても、十分な整理がなされていない。

そのほかにも、生産部門や流通・サービス部門などの改善課題、品質コスト、設備投資についての考え方などである。

40年経った今でも、問題の本質は変わらないのだ。

そしてきわめつけは、 

伝統的な財務会計、および原価計算資料には計画・管理のための計算にマッチしないものが多い。これは割勘計算と損得計算という基本的な考え方、およびその基礎にある計算目的の違いによる場合が多いが、そういうギャップを埋めていくための具体的な考え方ないし手順が十分に明らかにされていない。


この章の最後に次のような演習問題が載っている。

この先を読み進めるうえでのウォーミングアップの役割だ。

全部で12の問題があるがそのうちの一部を掲載する。


【演習問題】

以下の文章について、正しいと思うものには印、そうでないものには✖印をつけなさい。

[注意:ここでは、あなたの予備知識の程度を自己チェックするつもりで、とにかく○か✖をつけることをおすすめする。そして、○印または✖印をつけた理由を、どの程度はっきり説明できるかたしかめなさい。]

1.販売単価が変わらない限り、製品1個当りのコストが安いほど利益が多くなる

2.固定費の配賦を含む製品原価と、その製品の販売価格を比べた結果、赤字製品と黒字製

  品がある場合、前者を減らし後者をふやすような生産計画をすすめることによって利益

  をふやすことができる。

3.歩のよい製品を選ぶときには、製品の売価から変動費だけを引いた粗利益(限界利

  益)を調べ、それの大きいものから順に選んでいくのがよい。

8.売上利益率の高い製品は、それの小さい製品よりも、企業の利益に貢献する度合いが大

  きい。


この演習問題からもわかるように、

MQ会計を現場で実践するうえでの基本的な考え方や基礎にそのまま通じる。

そしてこの本には、数多くの事例と演習問題が掲載されている。

今回のメルマガで紹介した「ヒマなそば屋と忙しいまんじゅう屋」のような、

身近な事例がわかりやすく載っている。

ただし、ここで注意しなければならないのは、

「これを問答集と勘違いしてはならない」ということだ。

「この場合はこうで、あの場合にはこの事例だ」というような

たんなる当てはめ、ハウツー本的な使い方である。

この本に載っている事例や答えをそのまま覚えるのではなく、

これらの問題にひそんでいる背景にも目を向けてほしい。

MQ会計にかぎらず、伝える側の立場の人間(税理士やコンサルタント)は、

問答集やハウツー本に頼ってはいけない。思い込みもご法度だ。

なぜなら、

あらかじめ答えが用意された問題集のように、

カンタンに解決できる事案(問題)にはめったに出会わない

複雑に絡み合っているのだ。

私のMQ会計講座には、MQ会計を伝える側の人たちの参加が多い。

「ウノさんはどうやって現場でMQを指導しているのか!」ではなく、

MQ会計の基礎とは何なのか、目的は何なのか?

そしてそこから疑問を感じ取り、とにかく自身の頭で考える。

MQ会計は、伝える側にとっての商材では、けっしてありえない。

MQ会計は「応用のカタマリ」である。

このサイトの冒頭で紹介した<本書のねらい>のとおり、

真の応用力は原理原則を正しく、

そして十分に理解することから生まれるもの

「MQ会計【特別講座】」の講義終盤に紹介する「ある興味深い練習問題」は、

これからMQ会計を現場で実践するうえで、多くのテーマを含んでいる。

この問題に真剣に向き合う(考える)ことであらたな疑問が生まれ

そして次のステップへ進むことができる

管理会計(CVP分析)の限界を感じてもらいたい

という想いから作った(ただのネタにはしてほしくない)問題だから。


今回紹介した「新版・経済性工学の基礎」は、カンタンに読める本ではない。

思索をめぐらせながらじっくりと読む本であると思う。

MQ会計にかぎらず、伝える側の立場にいる人は、

背景にある考え方を読み取ってほしい。