Vol.497 決算書は究極のドンブリ勘定

(ご注意)
これから紹介するのはフィクション、架空の話です。
勉強のためだと思って、少しの間「倫理・道徳」は忘れてください。
 
Aさんはコンビニの店員です。
今月は会社の決算、店内とバックヤードの商品の棚卸(たなおろし)を
任されました。
 
上司から次のように言われました。
「もし、決算で利益が出たら"臨時ボーナス"を支給します」
「だからきちんと数えてください」
 
「えっ、臨時ボーナスがもらえるんだ。がんばって棚卸をしよう!」
 
終わったあとに休憩をしていると
倉庫の片隅にまだ数えていない商品があることに気づきました。
 
ざっと見ただけで500個はありそうです。
 
「ちょっと待てよ、、、」
「利益が出れば良い思いができる」
 
臨時の収入はとても魅力的です。
よこしまな考えが一瞬Aさんの頭をよぎります。
 
この500個を追加したほうがいいのか、、
それとも、このまま追加しないほうがいいのか、、、
 
                ・
 
さて、ここで質問です。
あなたがAさんだったら臨時ボーナスをもらうためにどちらを選ぶでしょうか?
 
1.この500個を追加して報告する
2.追加しないでこのまま報告する
 
----------------------------------------------------------------------
 
そもそも、なぜ決算で「棚卸(たなおろし)」をしなければならないのか。
棚卸は企業の業績にどのように影響するのか。
 
理由は、
 
決算書を作る際に、
・売上原価を確定させるため
・利益を確定させるため
 です。
 
最終利益は税金計算のもとになります。
ですから棚卸の金額は税額に影響を及ぼします。
 
棚卸は、先に在庫の【数量】を数えます。
 
本当は100個あったものを120個にすると
利益は20個の金額分増加します。
これを故意に行うと「粉飾決算」。
 
100個あったものを80個だったことにすると
20個の金額分、利益は減少します。
故意に行った場合は「脱税」です。
 
・ないものをあるように見せかける=粉飾
・実際にあるものを隠す=脱税
 
Aさんは、
 
 1.この500個を追加して報告する
 
を選択すれば会社の利益は増えて臨時ボーナスを手にすることができます。
ただし、意図的に行った場合には、問題ですね。
 
なぜなのか!
 
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ここからが本題です
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 
読者のHさんからメールが来ました。
 
◎いろいろ、考えて
 2の「追加しないでこのまま報告する」にします。
 1は「在庫を増やすと利益が減る」と考えます
  (途中に結論に至る過程が書いてあります)
  この考え方であってますか?
 次回のメルマガで解答お願いします
 
                ・
 
私が会計事務所に勤めていた40年前にこの問題を思いつき、
企業の営業や製造現場、そして経理で質問してみました。
 
会計に詳しくない営業や製造の反応は「予想通り」、
 
「2.追加しないでこのまま報告する」
 
です。10人中10人がこの答え。
Hさんも同じ答えです。(内心ほっとしています)
 
先日の東京MG研修では、
マトリックス会計の講義の中でこの話をしました。
マトリックス会計表をじっくり見れば、
なぜなのか、の理由がわかります。
 
じつは、私が簿記会計を習いはじめたとき、
「売上原価」のところでつまづきました。
 
簿記会計に詳しくない人は、
「2.追加しないでこのまま報告する」を選びます。
とても素直な考えだと思います。
 
なぜなら、
「期末の在庫が少なければ、期中でたくさん売れて利益が出てるはずだ」
と考えるからです。
 
ところが会計の世界では答えは、まったく逆。
 
                ・

 

「売上原価」は「会計用語」です。

読んで字のごとく
「売るためにかかった原価、売上に対応する原価」です。
 
売上原価を求める計算式です。
 
「売上原価=期首在庫+当期仕入(当期製造)-期末在庫」
 
この式の意味するところは、
 
会計では実際に売れた分の原価がわかりません。 
そこで先に売れ残った商品を調べます。
期首にあった商品に当期で仕入れた商品を足して、
売れ残った商品を差し引けば、
当期に売れた商品の原価がわかる【はず】です。
 
製造業でも同じように、
先に売れ残った製品を調べます。
期首にあった製品に当期に製造した製品を足して
売れ残った製品を差し引けば、
当期に売れた製品の原価がわかる【はず】です。
 
会計用語の説明は、とにかく素人にはわかりにくい!
 
前期からすでにあった在庫と当期に仕入れたものから
どれが売れて、どれが売れていないのか、わかりません。
 
売った分の金額が特定できないのです。
 
で、
 
しょうがないから、
 
残った在庫を調べます。
 
 
個数で考えたほうがわかりやすい。
 
1.期首に商品在庫が10個ありました。
2.期中で50個仕入れました。
3.合計すると60個になります。
 
4.会計では売れた個数がわかりません。
5.残った在庫を調べたら12個ありました。
 
6.期首在庫10個+当期仕入50個ー期末在庫12個=売上原価48個
  たぶん48個売れている【はず】
 
コンビニの定員Aさんは、
倉庫の片隅にあった在庫を足すか、そのままにするか、迷ったわけです。
 
かりに倉庫の片隅に3個あったとします。
この3個を加えると売上原価の個数は減ります。
 
期首在庫10個+当期仕入50個ー期末在庫15個=売上原価45個
 
売上原価は費用(経費)です。
3個分の経費が減ればその分利益が増えます。
 
Aさんは、「1.この500個を追加して報告する」と
会社の利益が増えて臨時ボーナス!となるわけです。
 
文章で説明しても、とにかくわかりにくい!
 
MQ会計ではこんな「わかりにくい」ことは起きません。
だから会計が苦手な人も使えるのです。
MQ会計は「わかりやすい庶民の会計」です。
 
                ・

 

会計を専門的に学んできた人の答えは、
 
「そんなのあたりまえだのクラッカー!」
 
当然、「1.この500個を追加して報告する」と答えます。
 
ところが、会計を知らない人からすれば
 
「そんな、バナナ!」です。
 
フツーの感覚とは逆なのです。
 
Hさんの答えは、私は好きです。
 
                ・
 
会計の世界にどっぷりつかっていると
会計思考から抜けられなくなってしまいます。
 
庶民の「逆」の感覚がわからなくなります。
税理士と社長の会話が噛み合わなくなります。
 
「原価を減らすには原価率を下げる!安く仕入れる!!」
というような安易な発想しか浮かばなくなります。
 
私は、40年前にはじめて会計を学んだとき、
「売上原価」がなかな理解できず、
なんという世界なんだ!と思いました。
 
会計の世界で生きていくということは、
会計の世界の常識にどっぷりつかるということ!
を学びました。
 
会計の世界を離れたいま、客観的に会計を見てみると
このようなおかしなことが他にもたくさん目につきます。
 
棚卸資産回転率、売上債権回転期間、自己資本比率、
労働分配率、付加価値の定義、
変動費や固定費も同じように感じてしまうのです。
 
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 決算書は「究極のドンブリ勘定」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 
なぜ、決算書はドンブリ勘定なのかというと、
 
一生懸命時間をかけて棚卸をしたとして、
もし、それが正しい数字だとして、
 
棚卸は「数量の把握、数えるのが先」です。
 
では、最後に何をするのか!
 
金額に換算するために「単価」を求めなくてはなりません。
金額で計算してはじめて決算書に計上できるのです。
これが「棚卸資産の評価」です。
 
この「評価のしかた」が、
私が感じる「究極のドンブリ」です。
 
では、棚卸の評価に使う単価はいつの時点のものか?
 
同じ原材料でも、高いときもあれば安く買えるときもある。
では、高い単価と安い単価のどちらを使えばいいのか。
 
評価のしかたが、たくさんある。
原価法に低価法、
 
個別法、先入れ先出し法、後入れ先出し法、
売価還元法、総平均法、移動平均法。
 
そして究極の評価、それが、「最終仕入原価法による原価」
 
期末に一番近い時点の仕入単価を
棚卸評価の単価にするというものです。
 
たとえば小麦粉のキロ単価が期中で値上がりし
期末に大幅に値下がりすると、、、
 
その逆もあるわけです。
だから本当の原価などだれにもわかりません。
 
でもOKです。
きちんとした会計のルールなので「正しい」のです。
 
                ・
 
MQ会計におけるVQはどうなのか?
 
VQはPQに対応しています。
Qは販売数量です。
VQとPQのQは同じです。
 
MQ会計におけるVQは棚卸に影響されません。
だからVQと売上原価は「違って当たりまえ」、
使う目的が違う、のです。
 
今回の記事を書くために
ネットで「売上原価」を検索してみました。
出てくるのは会計事務所と会計系コンサルティング会社。
 
私の感想、
 
「会計に詳しくない人が読んでもわかりにくいし面白くない。
 専門用語がやたら出てくる。なおさら興味がわかない。」
 
これは決算書の解説や分析にも通じます。
 
もっと工夫をしなければなりません。
アイデア、発想力、想像力(創造力)、創意工夫が必要です。
 
なぜ、いま多くの税理士がMQ会計のセミナーに来るのか。
MGをやろうと思うのか。
大きな理由の一つです。
  

━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 戦略MQ会計・DC・マトリックス会計

 社長のための会計学 マトリックス通信
【発行元】株式会社アイティーエス 
【発行責任者】宇野 寛
━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 

 メルマガをご希望の方は、こちらからご登録いただけます

 ⇒ 社長のための会計学【マトリックス通信】